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東京高等裁判所 昭和48年(く)195号 決定 1973年11月05日

主文

本件即時抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告の趣意は、抗告申立人弁護人木村壮、同太田惺作成の即時抗告申立書および忌避申立補充書と題する書面に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

所論は、要するに、昭和四八年九月一九日に行われた訴訟関係人と原裁判所との打ち合わせの席上、弁護人から原裁判所に対し、本案の審理にあたり、録音機の使用を強く要望したところ、これに立ち合つた裁判所書記官飛田泰男は、「録音機設置についての権限は書記官にある。」「こんな事件には録音機は絶対に使用しない。」旨発言し、その後である第一三回公判期日(同月二六日)において、弁護人から裁判所に対し、証人尋問には、速記による録取か、すくなくとも録音機を使用した録取をなすことを求め、これがなされないときは、弁護人において自ら録音機を使用することの許可を求めたが、裁判所はこれを認めず、しかも裁判所書記官をして録音機を使用せしめることについては、裁判所書記官の意向によりこれをなさない旨述べたので、本件のような事件の審理に当たり、微妙なニュアンスを含んだ証言を、正確・公正に記録するためには、右裁判所書記官を忌避するほかはないとして忌避申立をしたところ、原審は、「右忌避申立は、訴訟を遅延させる目的のみでなされたことが明らかである。」という理由で、右申立を却下したのであるが、原審の右決定は、刑事訴訟法二四条による簡易却下の制度の趣意に違反する違法なものであるから、取消さるべきものである、というのである。

そこで考えてみるに、一般に裁判所書記官の忌避の制度は、裁判所書記官が、当該事件ないしはその当事者と特別な関係にあるなど、当該事件の手続外の要因により、当該裁判所書記官によつては、その事件について公平な事務処理を期待することができない場合に、当該裁判所書記官をその事件から排除し、裁判の公正および信頼を確保することを目的とするものであつて、その手続内における発言や態度などは、それだけでは直ちに忌避の理由となし得ないものであり、仮りに当該裁判所書記官の関与によつて事件の審判に違法な点が生じたとしても、これらに対しては、公判調書の正確性に対する異議の申立を含む異議、上訴などの不服申立の方法によつて救済を求めるべきであるといわなければならない。

本件忌避申立の理由は、前記のとおり、裁判所書記官の、録音機の使用についての発言をとらえ、これを非難するに帰するのであるが、仮りに裁判所書記官から右のような発言があつたとしても、これは、まさに裁判所書記官の、当該事件の手続内における発言であつて、その内容の当否はとも角、これをとり上げて忌避の理由とすることの許されないことは前記のとおりであり、かかる忌避申立によつてもたらされるものが訴訟の遅延以外にはない本件において、忌避申立を刑事訴訟法二四条により却下した原決定は、相当であつて、論旨は、理由がない(忌避申立補充書と題する書面に記載されているその余の事項は、本件裁判所書記官忌避申立からさらに派生して発生した事項にわたるものが多く、これらは、本件忌避事件とは、直接の関連がない。)

よつて、同法四二六条一項後段により、本件即時抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(平野太郎 寺内冬樹 和田啓一)

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